Tさんとの作品制作の記述1(ここがはじめの記述/2025/12/08)

Tさんとの作品制作の記述1(ここがはじめの記述/2025/12/08)

 Tさんとは、2025/10/9にはじめてお会いした。どのような作品が作りたいのかを話し合い、煙のような抽象表現と羽の図像で構成した図案をひとまず作ってみることになった。

 こちらはその時Tさんが話したことのメモ。煙のような抽象表現と羽を図像として扱うと言っても、きれいに描けていればなんでもいいわけではなく、Tさんがそうしたかった経緯や記憶、経験と一致するように形を作っていく必要がある。抽象的なきれいさだけを追求するのではなく、Tさんの視点からみると別々の記憶の存在感が調和を生んでいるような構成となるところを目指す。

 とはいえ、いきなりそのような絵を描こうとするのは極めて難しいので、まずは美的にどうかというところのみで粗く構成を立ち上げてみる。

 

  全体の形を一度いろいろ試してみる。煙のような抽象表現、というのは人気な依頼内容であると思うけど、とても難しい。どうだろう、依頼内容でこれは簡単だと思えるものはないかもしれない。現状、全てとても難しいと感じる。
 つい、綺麗に撮れている煙の写真をそのまま使いたくなるし、実際そのまま彫ってもある程度綺麗なのだけれど、「腕に煙のタトゥーが写真のように彫ってある」という感じ方をするものになる。彫る人がやりたいことが、「煙を彫りたい」ということであればそれでいいと思う。だけど、実際に目に見える「煙」が重要なのではなくて、「煙」というイメージを通して感じる何かが重要であって、「煙のような抽象表現」が彫る人のつくりたいものという場合、「写真のように現実に目に見える煙の形を描く」ことはあまり重要じゃなくなってくる。
 「写真のように現実に目に見える煙の形」を彫ろうとした結果、「腕に煙のタトゥーが写真のように彫ってある」という感じ方をするものができることが多い。
 煙を見たときに、何かしらを感じているとして、その感じているものそれ自体は目に見えず、イメージすることもできなく、「煙」という形を通して感じられる。というような気がする。
 これからつくるイレズミ・タトゥーも、「何か」を感じるものとしてつくりたい。「煙のような抽象的な図像としてのイレズミの作品」を通して、「煙を見たときに感じる何かとにているもの」が感じられるような作品を自分としてはつくりたい。
 「腕に煙のタトゥーが写真のように彫ってある」という印象は、「写真のようにリアルな煙のタトゥー」を通して、「現実の煙」を思い浮かべる、といったようなことが起こる。こちらもこちらで、結局は「何か」にたどり着くようなことなのだと思うけど、これまで積み重ねてきた自分の経験は前者との相性の方がいいらしい。

 

 前者は、「現実の煙」というものを通して実感されていた「何か」とよくにな「別の何か」を、「煙のようなもの」という「現実の煙」ではないものである作品が実感させる。「何か」と「別の何か」は、目で見ることができず、イメージすることもできない感じるだけのものなので、どこまでが「何か」で、どこまでが「別の何か」なのかがわからない。そのように、「よく似た別の何か」を感じさせるものの出現によって、「現実の煙」という具体的な概念と「その感覚」の個別な関係が、グループ化され包含される。そうして、「現実の煙」という形は宙に浮いた空虚な外殻のようなものとして感じられると同時に、「実感されている何かしら」の存在感が強まる。「実感されている何かしら」と「実感する自分」との間の風通しをよくするようなことが起こっている。というイメージ。

 後者は、「現実の煙」とそっくりな「描いた煙」をつくりだすことで、「煙」という存在の本質を、感じる自分という地点まで一直線に繋ぎ合わせていくようなイメージ、、、だけど、こちらは苦手分野なので感じ取ろうとすると視界にもやがかかったようになる。

 このように、前者的に、要するに抽象表現として「煙のような図像」をつくりたいわけなのだけど、そうした時に難しいのは図案づくりなのだと思う。別の言い方をすると、「すごい木」を見た時に、「すごい木だな」と思う。ではすごい木が描かれた絵を見た時に、「すごい木みたいだな」と思う。「すごい木」を見た時、何かみたいだとはあまり思わない(として)。
そういう作品を作りたいので、「何かみたい」というものではなくて、それそのものがそこにあるというような感じが出てくるような図像じゃないといけない。
 となると、「煙を描こう」と思って始めるとうまくいかない。今回は完全な抽象ではなくあくまで「煙のような」ということなので、「煙」というイメージに寄せていきつつ、それでも「煙を描こう」とせずに、「何かそれそのものがそこにある感じ」を立ち上げようとして、結果的に、少なくともTさんに「煙みたい」という印象を持ってもらわなければならない。しかも、イレズミ作品であるので、身体のかたち・皮膚との関係の中で成立させなければならない。

 

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